ERMAのヘレンさん
 1973年、コンサートforファミリー協会を作り、活動を開始した。

 群馬交響楽団で学校訪問をしていた時の決心、それは「子供向けの音楽会は大人向けと同等、いやそれ以上に質の高いものでなければならない」ということだった。

 1971年に初めてヨーロッパに行った時、各地で[子供の為のコンサート]を積極的に見て回った。ベルリンでは[児童生徒の為のオペラコンサート]、ケルンでは[子供向けのラジオ番組]の公開録音、ローマではテレビで[イースターの児童合唱祭]、特に強く印象に残ったのはロンドン、ERMA主催の[Concert for Children]だった。

 Ernest Read Music Associationの主催、一年中毎月のように開かれていると聞いて行ってみた。土曜日の午前11時、テームズ河畔のロイヤルフェスティバルホールにはすでにフルオーケストラが色とりどりの普段着で勢ぞろいしていた。創立者のErnestは既に亡く、奥さんのHelenさんというおばあさまが開演前のステージにハンドバッグをもったままちょこちょこっと現れた。指揮台の脇に立って「皆さん今日も楽しく音楽を聞きましょう」と言い「さあ、指揮者を迎えましょう」と舞台袖に手を差し伸べる、コンダクターのテレンス・ロベット氏が登場し振り向きざまにスネアドラムに合図を送る、すると客席の2000数百人の子供達が一斉に立ち上がる、オーケストラもチェロ以外は全員起立、英国国歌が始まった。僕の両脇にいる10歳くらいの男の子も大声で歌っている。不覚の涙が止まらなかった。

 ハイドンの「時計」の3,4楽章、ラヴェルの「左手の」コンチェルト、ソリストは第2次大戦で右腕を失った人、このあとロンドンフィルの伴奏で会場が歌う「イギリスの古い歌」、フィナーレはシェエラザードから2曲、豪華な豪華な子供向けコンサートだった。楽屋にヘレンさんを訪ね「いちどゆっくりお話ししたい」と僕も上気していたせいか強引なお願いだった。
 
 3日後リージェントパークから程近いスイスコテージのお宅に伺った。僕の歩んで来た道、これからやりたいことなどをジッと聞いて下さったヘレンさんは言われた。
「コンサートをお始めなさい、力になってあげますよ」
東京に帰ってから夢中になって走り回り、そして遂にスタートさせることが出来たのが
[コンサート for ファミリー協会]だった。

 あの時ロンドンであのコンサートを見つけ、そしてヘレンさんをお訪ねすることがなかったらどうなっていたことか、とつくづく思う。

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